【2024年3月号】片柳弘史神父とよむ こどものせかい

2024.02.05   エッセイ

 

 


人の心を変えるもの

 

 だいぶ歳をとった神父さんから、思いがけない話を聞いたことがあります。なんと、その神父さんは、子どもの頃にどろぼうをしたことがあるというのです。戦争が終わったばかりで、まだ食べ物もほとんど手に入らないころのことです。家が貧しく、いつもお腹を空かせていたその神父さんは、近くの空き地で教会を作っているのを見て、その教会にしのびこみ、釘を盗み出して売ろうと思いました。

 うまくしのびこみ、持っていった袋に見つけた釘を入れているときに、後ろからいきなり、「何をしているんだ」という声がしました。教会の人に見つかってしまったのです。警察を呼ばれることを覚悟で、神父さんは、「何か食べ物を買おうと思ってこんなことをしました。すみません」と謝りました。すると、教会の人は、近くにあった箱の中から釘を取り出し、「それならこれも持っていきなさい」といって、袋を釘でいっぱいにしてくれたそうです。教会の人の思いがけないやさしさにふれて、神父さんはその場で泣き出してしまいました。そして、もう二度と悪いことはするまいと決心し、自分もいつか貧しい人たちを助ける人になろうと思ったそうです。そもそも、その神父さんが神父になろうと思ったのも、その体験がきっかけだということでした。
 
 『どんくまさんの おてつだい』を読んだとき、ふとこの話を思い出しました。人の家に入り込んでものを盗んでいた3匹のうさぎたちと、この神父さんの話が重なるように思ったのです。どんくまさんの勘違いのおかげで思いがけず誕生パーティーに招かれ、とても楽しい一日を過ごした3匹のうさぎたち。お土産までもらって家に帰るとき、いったいどんな気持ちだったでしょう。きっと、「こんなやさしい人たちを悲しませるようなことは二度とするまい。これからは、ちゃんと働いて、みんなの役にたつうさぎになろう」と思ったのではないでしょうか。

 もしかすると、この3匹のうさぎたちは、これまで誰からもやさしくされたことがなかったのかもしれません。だから、「誰もやさしくしてくれないなら、どろぼうしてやる。生きていくためだから仕方ない」と思ったのかもしれないのです。わたしは神父として刑務所でも働いているので、本物の元「どろぼう」たちから、そんな話をよく聞きます。そんな人たちも、誰かのやさしさに触れて心が少しずつ変わっていきます。どんくまさんのやさしい勘違いと、うさぎの家族のやさしさに触れて、3匹のうさぎたちがよいうさぎに生まれ変わる物語。わたしは、この絵本をそんなふうに読みました。
 
 

 

 


◇2024年3月号『どんくまさんの おてつだい』 柿本幸造・絵 蔵冨千鶴子・文◇

 

 

 

▼ 片柳弘史 プロフィール

カトリック宇部教会主任司祭。1971年埼玉県生まれ。1994年慶応大学法学部法律学科卒業。1994〜95年インド・コルカタにてボランティア活動。マザー・テレサから神父への道を勧められる。1998年イエズス会入会。2008年上智大学大学院神学研究科修了。同年、司祭叙階。現在は山口県宇部市で3つの教会の主任司祭、3つの幼稚園の講師、刑務所の教誨師。

◆著作に『みんなのやさしいおかあさん マザー・テレサ』(絵・つるみゆき/文・片柳弘史、至光社)『こころの深呼吸〜気づきと癒しの言葉366』『やさしさの贈り物〜日々に寄り添う言葉366』(教文館)、『世界で一番たいせつなあなたへ〜マザー・テレサからの贈り物』『何を信じて生きるのか』(PHP研究所)『ひめくりすずめとなかまたち』(キリスト新聞社)など。

◆Eテレ『グレーテルのかまど〜マザー・テレサのチョコレート』、テレビ朝日『ぶっちゃけ寺〜キリスト教特集』などに出演。ブログX(旧Twitter)facebookを通しても情報発信している。

 

 


 

▼こどものせかい2024年3月号
 

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